新築の住宅診断(ホームインスペクション)を検討していると、よく目にするのが「サーモグラフィ調査:+2万円」という追加オプション。
「サーモグラフィカメラで断熱材の欠損や雨漏りが見える!」と言われると、「一生に一度の買い物だし、2万円ならやっておこうかな…」と迷いますよね。
最初にお伝えしておきますと、当社では新築住宅のサーモグラフィ検査はサービス(無料)の範囲内で実施させていただいております。
なぜ無料枠にしているのか? それは、現場のプロとして本音を言わせていただくと、エアコンのない新築現場でのサーモグラフィは、気候や条件によって「ほぼ意味をなさない(2万円が無駄になる)」リスクが非常に高いからです。
今回は、なぜそう言えるのか、そして本当に2万円を払う価値があるケースとは何かを分かりやすく解説します!
サーモグラフィは「寒暖差」がないと何も映らない
まず、ここを勘違いしてはいけません。
サーモグラフィは「壁の中を見る機械」ではありません。
サーモグラフィカメラは、物体が発する熱を色で可視化するツールです。 壁の裏にある断熱材が抜けている場所や、雨漏りしている場所を特定するのにとても便利な機材なのですが……これには環境条件があります。
それは、「建物の外と中で、おおよそ10℃程度の温度差があること」。
冬: 室内を暖房で温め、外が寒ければ「断熱材がない場所」から冷気が伝わって色が青く映る
夏: 室内を冷房で冷やし、外が暑ければ「断熱材がない場所」から熱が伝わって色が赤く映る
……もうお気づきでしょうか?
引き渡し前の新築現場には、基本的にエアコンがありません。
季節が春や秋の過ごしやすい時期だったり、真夏・真冬でも冷暖房を入れていない室内では、外と中の温度差がほとんど生まれません。 その状態で2万円のサーモグラフィを使っても、カメラに映るのは「壁一面がただ同じ色に染まった画面」だけ。何も検出できないのです。
また、太陽が外壁に当たっているならば有効ですが、日陰の部屋においてはとても判定が非常に曖昧になるのが実状なのです。隣家と接近していたらほぼ日陰なわけです。
熱画像だけでは「是正の強制力」も持てない
サーモグラフィによる検査は時に曖昧であり、あくまで補助的な調査です。熱画像だけで全てを確定・判断できるものではありません。
仮に「ここに少し断熱材の隙間があるかもしれませんね」という推測はできても、目視できていない壁内部に関して、インスペクション会社が施工業者に「壁を壊して確認してください」と請求・強制できる権限はありません。
ましてや、新築住宅でサーモグラフィでハッキリ分かるほど雨漏りしている現場なんて、実際にはほぼ皆無です。
じゃあ、なぜ大手会社はオプションで勧めてくるの?
一言で言えば、「ハイテクな機材を使っている感」が出せるからです。
もちろん、中古住宅の雨漏り調査や、すでに生活していてエアコンが動いている家であれば、サーモグラフィは非常に有効な検査になります。
しかし新築内覧会の場合、エアコンがほとんどついていないにもかかわらず「標準メニュー+2万円」としてセット提案されているケースが少なくありません。
プロから見れば「今の季節、エアコンなしでどうやって温度差を作るつもりなんだろう……?」と首をかしげてしまいます。
さらに言えば、現場でのサーモグラフィ検査にかける時間なんて、通常であれば10分程度です。
10分で2万円……しかも判断は曖昧になりがち。
追い打ちをかけるようですが、サーモグラフィカメラは高価な産業用なら50万円以上しますが、診断現場で使われているものの多くは5万円程度ではないかと予想します。5万円程度のものが悪いというわけではありませんが、その程度の機器だということです。
事業者側からすると、最もコストをかけずに検査単価を引き上げられる「コスパの良いオプション」になってしまっているのが現実なのです。
サーモグラフィ検査に2万円を払ってもイイ条件・ダメな条件
✕ 2万円が無駄になりやすいケース
- 新築の引き渡し前・内覧会(エアコンがない場合)
- 春や秋など、外気と室内の温度差が少ない日(夏や冬でも日光の当たっていない箇所は分かりにくい)
◯ 2万円の価値があるケース
- 中古住宅の購入検討(雨漏り調査や、居住中でエアコンが動いている場合)
- 真夏の直射日光が当たる時間帯(屋根や外壁が強烈に熱せられ、エアコンがなくても小屋裏の断熱抜けが反応することがありますが、日陰の部分は分かりにくい。)
- 引き渡し後、実際に住み始めてからエアコンがあり断熱性能を確認したい場合
- 吹き抜けのある家(通常の2.4m程度の天井ではなく、吹き抜けの高天井になっている部分は、まれに壁の断熱材施工ミスが潜んでいることがあります)
依頼する前に会社に聞きたい「4つの質問」
もしインスペクション会社からサーモグラフィのオプションを勧められたらこう質問してみてください。
- 「当日はエアコンがついていませんが、有効な検査ができますか?」
- 「どのような温度条件・測定方法で検査を実施するのですか?」
- 「日陰の部屋や温度差が取れない場合でも費用は発生しますか?」
- 「サーモグラフィで異常の疑いが出た場合、施工側にどう是正誘導してもらえるのですか?」
この質問に明確で納得のいく回答が得られない場合は、無理に2万円のオプションを追加する必要はないと思います。
私はサーモグラフィを否定しているわけではありません
誤解のないように申し上げておきますが、私はサーモグラフィそのものを否定しているわけではありません。 むしろ、条件が整った現場では非常に優れた検査機器だと思っています。
ただ、「サーモグラフィを使えば断熱材の施工状態が何でも分かる」と単純に考えるのは危険です。
住宅診断において重要なのは、機械を使うこと自体ではありません。 「その機械で何が分かるのか。逆に、何が分からないのか」を正しく理解したうえで使用することです。
「高い機械を使う=詳しい住宅診断」ではありません。 検査機器が増えれば増えるほど、住宅診断の精度が上がるわけではないということを、ぜひ覚えておいてくださいね。
その機械で何が分かるのか。
逆に、何が分からないのか。
そこを理解したうえで使用することです。
「高い機械を使う=詳しい住宅診断」ではありません
住宅診断を依頼する方には、ぜひ覚えておいていただきたいことがあります。
検査機器が増えれば増えるほど、住宅診断の精度が上がるわけではありません。
検査会社側もこういった実状を詳しく説明をしないまま追加オプションとしてしまっているのならば、個人的にどうかと思っています。
次回は新築検査の「鉄筋探査」について書きたいと思います。

