建物の傾斜について

ビー玉が転がってしまう

テレビ番組が欠陥住宅を紹介する時、床の傾斜を確かめるのにビー玉が転がっていくシーンを見たことは無いでしょうか?
ビー玉が転がる映像は衝撃的ですよね。


しかし、プロのインスペクターが診断をする時はビーを使用しません。

テレビ番組がビー玉を使用するのはインパクトがあるからでしょう。

また、実際にはビー玉やパチンコ玉が転がるからと言ってすぐに欠陥住宅と判断するわけではありません。
なぜならば、ビー玉は転がりやすいからです。

私は現場でビー玉やパチンコ玉を置いて何件も試したことはないので、正確お伝えできませんが、新築物件でも多少転がる可能性はあるでしょう。

ビー玉が部屋の端から端まで勢いよく転がっていく場合は、傾斜していると思いますが、コロコロと動く程度ならば問題ない可能性もあります。 もし、玉を用いて傾斜をみるならば、ピンポン玉かゴルフボール程度が良いといわれることもあります。

どのような機械で測るのか

インスペクターが建物傾斜を測る場合は、レーザーレベルを使用することが一般的です。

ただ、このレーザーレベルは、計測をする人や計測する場所・機械によって変わってくるため、報告書で書かれた数字は、インスペクターによって若干変わると思います。

壁を測るものとして、下げ振りという糸にオモリがついたもので測定する方法もありますが、この下げ振りは壁にピンで固定するため壁に穴があくため、仕上げをした場合は不向きです。

ただ、この原始的な方法が個人的には一番正確ではないかと考えています。

傾斜の基準

建物傾斜の基準は、品確法と呼ばれる法律に下記のような3つのグレードで定められています。

3/1000未満 構造に瑕疵が存する可能性は少ない (ある意味:白)

3/1000以上6/1000未満  構造に瑕疵が一定程度存在する (グレーゾーン)

6/1000以上  構造に瑕疵が存する可能性が高い (ある意味:黒)

分母の1000というのは1mのことで、分子の3は3mm、6は6mmという意味となります。

新築では1mあたり3mm未満であるか確認し、中古住宅では1mあたり6mm以上あるか確認をしています。


床の傾斜が6/1000以上あると、めまい、頭痛、ふらつきなどの健康被害を引き起こす可能性もあるため、国としてもこの数値を定めているのだと思います。

また、床については3m以上、壁については2m以上で測るという原則があるため、これより短い距離で傾斜しているとか床がボコボコしているということには当てはまりません。

傾斜と不陸について

建築の相談でよくあるものとして、マンションのリフォームで床がボコボコしているという相談があります。

ボコボコしているということを建築用語で不陸(ふりく)といいますが、このような部分的な床の傾斜は品確法では対象となりません。

また、品確法では基本的に建物躯体(骨組み)を対象としていることに対して、相談によくある不陸のトラブルは建物躯体(骨組み)の上に重ねられた仕上げ材料による問題であり、職人の腕の良し悪しに関わる部分です。

この職人の腕の良し悪しに関しては基準がないため、ジャッジすることは難しいですが、大抵の場合3m以上で測っても6/1000を超えているという相談は少ないです。

特にリフォームの場合は、元々の不陸のあるフローリングの上に新しいフローリングを重ね張りしていることもあったりして、一概にリフォーム業者の責任と言い切れない場合もあります。

ただ、そういった不陸となるリスクも説明せずに施工してしまうリフォーム業者も疑問に感じます。

新築で傾斜がある確率

では、どのくらいの確率で傾斜があるのか気になるところですね。

私は必要以上に不安を煽るようなことを書きたくありませんが、私が1300件以上インスペクションをしてきた感覚を正直に書きます。

新築物件の壁の傾斜については10件に1件ぐらいは3/1000を超えるものがあります。

ただ、これは部分的に傾いているもので、建物全体がある一定方向に傾斜しているものではありません。

新築物件の床傾斜については、300件に1件ぐらい3/1000を超えることがあったでしょうか。という感じです。

新築物件で床が6/1000以上超えた物件は1件だけありました。

その物件は地盤が悪く建物ごと傾いていました。

結局、その家はジャッキアップをして建物を規定値以内に補正したとご依頼者様から報告を受けています。

新築でよくあることが、1階に広いリビングがあり2階に子供部屋や寝室がある間取りです。

1階には柱のないリビングがあるため、1階の天井上にある太い梁が2階を支えるために頑張っているわけです。

まして、2階は間仕切りの壁があるため荷重がさらに梁に載っていることになっています。

この場合は、3/1000は超えないまでも2/1000以上計測されるケースもあるため、そのような時は、必ずそのような説明をさせていただいております。

ただ、この種の傾斜は、構造的な瑕疵というよりも梁のたわみではないかと考えられます。

中古住宅の建物傾斜

話しは変わりまして、中古になります。

中古については、やはり年代が古ければ古いほど傾斜のリスクが高くなっています。

私は、古民家のような家も数件インスペクションしておりますが、築50年以上経っていると6/1000を超える傾斜の率は高くなる傾向にあると言えます。

6/1000と言うとどのくらいかというと、一般の方はほとんど気が付かない場合が多いです。

ただ傾斜に敏感な方は、気づくかもしれません。

私は古い物件の場合、傾斜測定する前に体感するようにしているため、6/1000を超える場合は「これは傾斜がありそうだな」と違和感を感じる時は、実際超えていることが多いです。

また、6/1000を明らかに超えている家というのは、室内のドアを途中で止めると勝手に閉まるか、勝手に開いてしてしまうことがあります。(ごく僅かにゆっくり開閉してしまう場合は、建具の丁番の不良も考えられます。)

そのようなことも踏まえ複合的に判断して建物に傾斜があるかどうか判断します。

擁壁に注意

もう一つ気を付けたいのが擁壁です。

新しい擁壁でちゃんと許可が下りている擁壁ならばそれほど心配しなくても良いですが、古い擁壁が下にある場合、擁壁側に下がっているという住宅もありました。

許可も取得していないような古い擁壁は、地盤の上にさらに土を盛ることもあった時代もあるため、盛られた土が締め固めてられていないと建物が沈んでしまうということがあると思っています。

まとめ

  • 床の傾斜はビー玉などを使って転がるからといって即欠陥住宅とは断定できない。
  • 傾斜を測る場合は、レーザーレベルを使用し、できればプロに依頼をした方が良いが、数値的な意味づけは理解をしておく。
  • 室内の扉を途中で止めてみてあきらかに自然に閉まるか閉じる場合は要注意。
  • 新築においては、余程のことが無い限り建物がある一定方向に傾斜していることは無いが、部分的な傾斜は10%程度の確率である。
  • 中古住宅の建物傾斜は年代が古くなればなるほど傾斜リスクは高くなる。
  • 擁壁の上に家があるような物件は注意が必要。

中古住宅の場合、6/1000を超える傾斜があっても、物件を売買してはいけないということはありません。

その傾斜があるという事実を知って建物を購入するのと、建物の傾斜を知らずして購入し、後から不安になるのでは大きな違いがあると思っています。

インスペクションを行う意味というのはここにあります。瑕疵や欠陥も事前に知っていれば対応するか購入の見送りができますが、購入してしまった後では不安だけが残ってしまいます。

もし、今住んでいる家の傾斜が気になるという方もお問合せいただけたらと思います。

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